わたしはダイエーを創業した中内さんを
経営者として敬愛してきました。
ダイエーは残念ながらその後を継がれた息子さんの時代から、
急速に解体の方向へ進んでしまっています。
しかし、それと中内さんという経営者の実力、
感性とは違う問題だとわたしは思っています。
なぜ好きになったかといえば、
『 商人とは売るものではありません。顧客のために買う者です。 』
という彼の言葉に惹かれたことがきっかけだったと記憶しています。
顧客のために買うものとは、
消費者の生活をカイゼンしていける者。
つまり大げさにいえば改革者です。
その点からも、彼は大いなる実践者でした。
戦後のダイエーの活躍のおかげで、ディスカウントストアという概念が
日本にも定着し、消費者のお買い物コストは随分と安くなりました。
彼は15年前の著作の中で、日本の現状、未来を非常に憂いています。
まるで今の時代に生きていたかのように、日本の問題点を言い表しています。
普通の人にイノベーション(改革)の機会を与え、
働く喜びを感じる機会を与え続けることがとてもとても重要だと。
日本にとって、失われた10年といわれる10年間を含めたこの20年間、
日本はまったく逆のことをしてきてしまったのではないでしょうか?
問題をあげていけば、この紙面では語りつくせません(笑)が、
ひとつわたしが挙げるとするならば、人材派遣というビジネスを
国が必要以上に認めて、その問題を大きくしてしまったことです。
このことは日本の国力を大きく奪う結果しかもたらしていないと思います。
人材派遣は一見とても便利なシステムです。
働く側からすれば、好きな期間だけ働けます。
ボーナスがない分、毎月毎月の給料は多い。
企業側からしても永続的に雇用をする必要がないから、
保険や年金などの余分な経費をもたなくていい。
両者によいようにみえるこのシステムはこの国から、
日本人が築きあげてきた 『 働くという習慣 』 をものの見事にぶち壊してしまいました。
本来であれば、勤勉でまじめ、努力家、ひとつの会社で勤め上げることが
美徳であった日本人に、アメリカ型の合理的な労働観念を植えつけてしまいました。
その結果、勤めた会社をスグに辞める。
上司や先輩に指導を受け、気にくわなければスグに辞め、
他の会社に移動してしまえばよいと考えやすくさせてしまいました。
派遣会社からそのときだけの時給をもらっていても
将来の保証などどこにもないのに、先を考えず、今だけを生きる自分をつむいでいく・・・。
その延長線が今の時代です。
こんなことをしていればどうなるのか?
今のアメリカを見れば、誰の目にもあきらかでしょう。
そんな人間が大半の中、国が大勢の国民の将来など補償できるわけないのです。
だって、みんなで税金や年金を払わないで済むカタチを認めてしまったのですから。
坂本竜馬が活躍した徳川時代の社会は、厳格な階級社会でした。
そしていかなる階級間の移動も認めませんでした。
竜馬たちが活躍し、日本で明治維新がおこった最初の20年は、
階層の間を移動できた人は極めて稀でした。
これらは西ヨーロッパのナポレオン戦争後の30年間でさえ同じことでした。
近代になって、はじめて社会的な階層間の移動が見られるようになりました。
実はこのことは人類史上はじめてのことなのです。
明治の偉大さ、明治維新の偉大さは、
教育が社会的な移動の手段になることを皆が認識したことにあります。
教育の力によって、若者が、その出自から離れられることを理解したということです。
今、わたしたちがすべきことは、変化し成長していかなければいけないということです。
日々、カイゼンしていける組織であることが一番強い組織でしょう。
そのために、特別な能力、力のある一人に頼ったりするのではなく、
普通の社員にカイゼン(イノベーション)の機会を与え続けていくことが大切であるという、
15年前の中内さんの言葉が今、新しく新鮮にも感じ、
一番大切なことなようにわたしには感じるのです。